「施設に入る費用を作るため、親の家を売りたい」——このご相談は年々増えています。しかし、本人の判断能力が低下している場合、家族であっても勝手に売ることはできません。
なぜ売れないのか
不動産の売買は法律行為です。契約の内容を理解し、自分の意思で判断できることが前提になります。認知症などで判断能力が失われていると、契約そのものが無効になり得ます。
司法書士は決済の場で本人確認と意思確認を行います。ここで意思疎通ができないと判断されれば、登記手続きは進みません。「家族が代わりに署名すればいい」ということにはなりません。
成年後見制度を使う場合
すでに判断能力が低下している場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立てることになります。
手続きの流れ
- 家庭裁判所へ申立て(診断書、戸籍、財産目録などが必要)
- 審理・鑑定(必要な場合)
- 後見人の選任(申立てから1〜3か月程度)
居住用不動産には家庭裁判所の許可が必要です
後見人が就いても、自由に売れるわけではありません。本人が住んでいた(住む可能性のある)不動産を売却するには、家庭裁判所の許可が別途必要です。「本人の利益になるか」が審査され、売却の必要性と価格の妥当性が問われます。
知っておくべき制度の重さ
- 後見は本人が亡くなるまで続きます。売却が終わったからといってやめられません
- 親族が必ず後見人に選ばれるとは限らず、専門職(弁護士・司法書士)が選任されることがあります
- 専門職の場合、月額数万円の報酬が継続的に発生します
- 家庭裁判所への定期報告が必要です
「家を売るためだけ」に始めた制度が、その後何年も続くことになります。この点を理解せずに申し立てると、後から負担を感じることになりかねません。
元気なうちにできる備え
任意後見契約
判断能力があるうちに、将来支援してくれる人を自分で決めておく契約です。公正証書で作成します。誰に任せるかを本人が選べる点が、法定後見との大きな違いです。
家族信託
財産の管理権限を、信頼できる家族にあらかじめ移しておく仕組みです。委託者(親)、受託者(子)、受益者(親)という形が一般的で、親の判断能力が低下しても、受託者である子の判断で売却できます。家庭裁判所の関与も不要です。
初期費用はかかりますが、後見のような継続的な報酬は発生しません。「将来、実家を売って施設費用に充てる可能性がある」というご家庭では、検討する価値があります。
判断が難しいときは早めのご相談を
この分野は、状況によって取れる手段がまったく変わります。判断能力があるうちなら選択肢は多く、失われた後は成年後見しか残りません。
前橋不動産では、提携する司法書士と連携し、どの制度が適しているかの整理からお手伝いしています。売却の可否だけでなく、そもそも売る必要があるのかという段階からご相談ください。相続・不動産のご相談もあわせてご覧ください。

